取組企業へのインタビュー

大卒採用をきっかけに奨学金返済支援を開始。若手社員の採用・育成・定着に本気で取り組む。

新潟市中央区に本社を構える 株式会社千代田設備。昭和40年の創業以来、社員の働きやすい職場をつくり続け、平成31年、「新潟市働きやすい職場づくり推進賞」も受賞しています。とくに評価されたのは人材育成の手厚さ。県知事認可による企業内職業訓練校「千代田テクニカル・スクール」の運営や「技能五輪」への参加など、多様な取り組みを実践しています。

今回は、常務取締役で建築設備部部長の佐藤光也(さとう・みつなり)さん(写真左)に取り組みの背景について伺い、建築設備部で新卒3年目の星名ちさと(ほしな・ちさと)さん(写真右)に、若手社員から見た育成環境について伺いました。

若手社員定着のための支援を実施

千代田設備さまは、新潟市が取り組む企業参加型奨学金返済支援事業も活用しています。この事業に申し込んだきっかけや目的を教えてください。

佐藤さん:2021年に大卒採用を初めて実施したことが導入のきっかけでした。

それまでは、高卒採用が主流でしたが、大学生の採用活動を行う中で、奨学金返済に苦しんでいる学生が多くいることを知り、魅力ある会社づくりの一環として、制度を新たにつくりました。

2022年卒、2023年卒の採用の際にも、求人票への記載や企業説明会で紹介しました。学生も関心が高かったようです。

制度創設にあたっての懸念や苦労はありましたか

佐藤さん:奨学金返済のない人もいるなかで、手当を付けることが賃金平等性の観点からどうなのか、という懸念もありました。

しかし、社会課題にもなっている奨学金返済問題を支援することも採用先企業の責任のひとつと考え、実施を決めました。昨今、採用が厳しいことは全社員が理解していましたので、会社の採用力強化方針として社員には理解いただいたと思っています。対象社員からは、ありがたいと感謝されています。

また、新潟市からの補助金制度導入の後押しになってくれました。補助がなければ導入は難しかったかもしれません。

技術力の向上と、つながりづくりのための企業内職業訓練校

改めて、企業内職業訓練校「千代田テクニカル・スクール」について教えてください。

写真:佐藤光也さん

佐藤さん:千代田設備が蓄積した技術を伝えるための、技術者を対象とした研修制度です。

スクールができる前は、OJT(On the Job Training)での教育がメインでした。新入社員は入社後に現場へ配属され、そこで親方に師事して技術を学んでいました。しかし、親方によって成長スピードが変わることが課題で、新卒社員が増えてきた2000年ごろ、教育の均質化を目的に始まったのが「千代田テクニカル・スクール」だったのです。

研修は年間96時間のカリキュラムで、研修内容としては「配管の基本」といった、設備工事の基礎がメインでした。さらに、マナーや、仕事に対する考え方も伝え、社会人としての基本を固めてもらう目的もありました。スクール開始後、すぐに世界の職人が腕を競う「技能五輪国際大会」へ出場する社員も排出でき、技術力向上の効果は高かったと思っています。

そんな千代田テクニカル・スクールですが、今は時代に合わせて少しやり方を変えています。スクール立ち上げ当初は、高卒で職人になる人がほとんどでしたが、最近は大卒で施工管理や事務系の仕事に配属される新入社員が増えました。そこで、先輩社員からの業務内容のレクチャーや職場見学など、自社についての理解を総合的に深めてもらうプログラムを増やしています。

星名さんに伺いたいのですが、実際にプログラムを受講されていかがでしたか?

星名さん:早い段階で会社の考え方や、全社の業務内容について把握できる機会だったと思います。また、私にとっては同期とつながりをつくるための機会でもありました。

同期の人たちは配属先がバラバラで、普段からやりとりをする機会は少ないですが、久しぶりに会うと互いの仕事について話をします。会話を通して「この人はこんなに成長しているんだ」と刺激をもらえ、自分の成長にも気づくことも多いです。お互い頑張っているんだと実感して、なんとなく「明日からも頑張ろう」という気持ちになれます。

佐藤さん:まさに、スクールを開催している目的の一つは、同時期に入社をした新入社員同士のつながりをつくることです。スクール終了後も、1〜2年目社員で集まる場を可能な限り設けています。互いに高め合い、モチベーションを与え合う関係性構築のサポートができればと考えています。

成長は「生きがい」と「世界の広がり」をくれる

千代田設備さまは企業内職業訓練校に限らず、若手社員の成長を促すためにたくさんの取り組みをされています。その背景にはどんな狙いがあるのでしょうか?

佐藤さん:もちろん、会社として業績を上げ続けるために、社員一人ひとりに成長してもらわないといけない、という考えもあります。

ただ、一番根幹にあるのは「たった一度しかない人生を、有意義で豊かにしてほしい」という創業者の思いです。我々は「仕事とは人間的に成長し、人生を豊かにする手段の一つ」だと捉えていて、私自身も先輩社員たちから口酸っぱく言われてきました。

なるほど。入社3年目の星名さんは、「成長」についてどのように考えていらっしゃいますでしょうか?

写真:星名ちさとさん

星名さん:「生き甲斐」に近いのかなと思います。なんとなく日々を過ごすよりは、何かに取り組みながら、できることが一つひとつ増える日々を過ごす方が、喜びを感じながら生きていけます。また、自分が何かできるようになると、結果的にそれが会社のためになって、世の中のためにもなります。そんな自分が与える影響を実感すると、さらにモチベーションが高まります。

時代の変化に対応するため、制度のつくり方をアップデート

職場環境づくりで気をつけていることはありますか?

佐藤さん:時代の変化に合わせることです。そのために、千代田設備では職場環境に関する制度のつくり方自体を変えました。

これまでは、役職者が集まって制度設計をしていました。しかし最近、社員の中からリーダーを集めたプロジェクトチームを組織し、そのチームの中で話し合って新制度を決める方式に変更しました。

背景には、世の中の変化に取り残されてしまうかもしれないという危機感がありました。建設業界は比較的、働き方改革が遅れている業界だと感じています。だからといって、我々も同じ基準で環境をつくっていては、いずれうまくいかなくなってしまいます。業界の常識に流されず、これからの新しい働き方をサポートするには、現場の社員たちからの意見を参考にするのが早い、と思って今のやり方へ変更したのです。

プロジェクト方式にしてからは、これまでとは全然違う制度が誕生しています。たとえば、パートタイム契約の社員に、正社員になってもらう制度もその一つです。きっかけは、実際にパートから正社員への契約変更を希望する声があがったことでした。定時は守るべきか、多少ずれても良いのかなど意見が交わされ、最終的にはパートから正社員へ契約を切り替えるための新しい制度がつくられました。

時代に合わせた既存制度のアップデートや、新制度策定を積極的に続けていますが、何か効果は感じますか?

佐藤さん:新卒3年以内の離職率は27%と、入社3年以内に4割以上が辞めてしまう業界平均と比べると低い数字を保っています。また、女性活躍に関しても一定の効果が出ています。

建設業界はいまだに男社会的な文化が根強く、女性社員が少ない会社も多いです。千代田設備としては「2030年までに女性社員比率20%越え」を掲げていて、すでに達成している部署もあります。今後は他部署でも目標を達成するのと同時に、女性の役職者をたくさん生み出す環境づくりにも取り組みたいです。

働きやすい環境づくりと、良い仕事の創出を両軸で

最後に、今後の展望を教えてください。

佐藤さん:個人的に、千代田設備は今とてもよい状態になりつつあると感じています。

これまでは、求職者が少なく、せっかく入社してくれてもすぐに離職してしまう、つらい時代もありました。今は、星名さんのような人材が安定的に入社してくれ、離職率も低いです。社内外のいろいろな人から自社に魅力を感じてもらえていて、未来は明るいのではと思っています。

ただ、同時に責任も感じます。一緒に働いてくれている仲間たちのために、もっとたくさんよい仕事を生み出さなければと思っています。そのために、新サービスの立ち上げや、業界の多くのステークホルダーとの交流など、私にできることに精一杯、取り組んでいければと思っています。

星名さん:私の場合、まずはもっと成長して今よりいい仕事ができるようになりたいです。また、これまで余裕がなくてできなかった、新入社員へのアウトプットにも力を入れていければと思っています。

とくに私は未経験からの入社で、大学での専攻も建築系ではなく、右も左も分からない状態からのスタートでした。これから入社してくる人の中にも、未経験からスタートする人はいると思っています。そんな人たちが少しでも早く一人前になれるよう、自分が培った知識やノウハウを還元できればと思っています。

企業情報

株式会社千代田設備

1965年創業の建設会社。新潟市中央区に本社を構え、県内に複数の営業所と関連会社を持つ。設計から施工までワンストップで手がけ、管工事、空調工事、営繕工事、災害復旧工事、産業廃棄物収集運搬、建築工事、不動産の売買と、建物に関する幅広いサービスを展開。公共設備の入札案件も多数手がける。関連会社含めグループ全体で260名(令和4年2月28日時点)の従業員が在籍。