取組企業へのインタビュー

障がい者雇用は一方的な支援ではない。社会貢献と企業活動の両軸で、増収を続ける

新潟市にて、アフリカのパンに出会えるパン屋さんAfrican Bakery Cafe Namitete(ナミテテ)を展開する株式会社バオバブ。創業以来、障がい者雇用、障がい者の就労支援へ取り組んでおり、令和4年度「働きやすい職場づくり推進企業表彰推進賞・新潟県経営者協会特別表彰」を受賞しています。

どのような取り組みをされているのか。取締役の工藤知子(くどう・ともこ)さんに伺いました。

きっかけは、一人の自閉症の子との出会い

改めて、障がい者雇用の取り組みについて教えてください。

工藤さん:2013年に障がい者雇用を始めて以来、経営するパン屋African Bakery Cafe Namitete(ナミテテ)では、常に障がいのある方たちに働いてもらっています。現在、障がいを持つ社員は2名で、他の方の実習の受け入れも積極的におこなっています。特別支援学校の生徒さんや就労移行支援事業所の利用者さんの実習など合わせて25名以上の方々を受け入れてきました。

また、地域の小学校・中学校、社会福祉協議会の研修などにおいて障がい者雇用の取り組みを紹介する活動もおこなっています。

取り組みを始めたきっかけを教えてください。

工藤さん:創業2年目で、とある自閉症の少年と出会ったことです。

その少年には、一般社団法人ぷれジョブが運営する職場体験プログラムで出会いました。最初は支援学校の先生が来て「ここで障がいを持っている人の実習はできますか」と聞かれ、Namiteteは地域に愛されることをコンセプトの一つとしていたので、断る理由はないと受け入れることにしたのです。

少年はとにかく落ち着きがなく、作業中にいきなりジャンプを始めたり、四つんばいで歩き始めたりと、予想外の行動ばかりでした。そんな少年の姿に私はショックを受け、障がいのある子どものことについてまったく知らなかったなと痛感しました。

同時に興味も湧きました。その少年のような子どもは全国にたくさんいますが、接する機会はとても少ないです。もっと彼ら彼女らについて知りたいと積極的に実習先として受け入れるようになりました。

もともとNamiteteはアフリカの貧困問題をきっかけに生まれたお店です。しかし、障がいのある子どもたちと接するうちに、社会的に弱い立場の人は途上国だけでなく、この日本にも存在するのだと感じるようになりました。遠くの人たちに思いを馳せる前に、目の前の人たちにできることがあるのではと意識が変わり、創業3年目ごろから会社の事業の一つとして障がい者雇用、障がい者の就労支援に取り組むようになったのです。

障がいのある人がチームに混ざると「協調」が生まれる

取り組みをはじめて、会社にどのような影響があったのかを教えてください。

社員一人ひとりが全体を見ながら仕事をする習慣がついたと感じています。

障がいを持っている方を受け入れる際は、障がい者手帳含め、障がいに関する資料を事前に共有いただきます。ただ、特性を正確に把握することは難しく、「できる」と書いてあることが実際にはできないなんてことはよくあります。

そうなると一緒に働くスタッフは障がいのある仲間の動きを気にかけざるをえません。「業務の進捗具合はどうかな」「間違った作業をしていないかな」と、自分の作業をしながらも、よく周りを観察するようになるのです。その結果、全員が目の前の作業だけでなく、店舗全体を見渡しながら業務にあたる習慣が身につきました。

また、助け合いの雰囲気が強まったとも感じます。

障がいのある方を長期雇用してわかったことですが、できないことがある人が混ざったチームは「協調」の雰囲気が強まります。全員が均一な能力を持つ集団と違い、「人それぞれ、できることに差があるのが当たり前だ」という感覚が育まれるからだと思います。

もちろん、全員の能力が一定以上に揃っている集団を悪いとはまったく思いません。互いに切磋琢磨し合うことで生産性が高まり、さらに能力が上がるという好循環も生まれると思っています。ただし、度が過ぎた競争はストレスを生み出し、短期間で社員が辞めてしまう、という問題も引き起こす可能性があります。

一方で、障がいのある人がチームにいると、一時的な生産性は下がるかもしれません。ただ、チームの良い雰囲気は、下がったぶんを補って余りある価値が発揮される可能性もあります。

Namiteteの場合は、円滑なチームワークはそのまま商品の質の高さに反映されています。そういう意味では、障がいのある方の雇用について、そこまでためらう理由はないと個人的には思います。

さらに、障がい者の就労支援や障がい者雇用への取り組みが社会的に認められ、大規模な発注をいただけるケースもあります。特別支援学校から文化祭のためにパンを300個つくってほしいという発注もありました。同業の方からは「よくそんな大きな仕事が来ましたね」と言われますが、これまでの我々の取り組みを地域の方々が見てくださっていた結果だと思います。

決して、お店の看板に障がい者雇用について書いているわけではなく、一見すると普通のパン屋さんにしか見えません。それでも、わかってくださる人も多く、長期的な視点で見れば、障がい者雇用への取り組みは企業の競争力になっていると思います。

さまざまな要因が重なってではありますが、Namiteteは障がい者雇用を初めてから毎年、コロナ禍でも増収を続けています。障がいのある方の存在がどれほど数字に影響を与えているのかを示すのは難しいですが、個人的には「人間関係はつくるモノに反映される」と思っていて、障がい者雇用が経営に与えたポジティブな影響はとても大きいと考えています。

障がい者雇用に取り組む企業が、一社でも増えるた めに

今後の展望を教えてください。

会社としては、引き続き自社で雇用をし続けることはもちろんですが、発信活動にも力を入れたいと思っています。その一環として、新潟市が取り組む、障がい者雇用支援企業ネットワーク「みつばち」にも積極的に取り組んでいます。知的障がい発達障がいの疑似体験セミナー「みつばちキャラバン隊」の活動も始めました。興味のある企業・学校・行政組織はぜひお声がけいただけるとうれしいです。

(facebookページ「新潟市障がい者雇用支援企業ネットワーク“みつばち”」)

社内の働き方としては、これから結婚、出産、介護などライフステージが変わる社員のための制度づくりに力を入れていくつもりです。社員にとって仕事もプライベートもうまくいくための職場環境にしていければと思っています。

そのためには、今よりも人手が必要で、人手を増やすには収益を上げることが必要。とはいえ、安易に店舗数を増やすことは考えていません。今は、規模の拡大よりパンとサービスの質を高めることの優先順位が高く、それは収益に直結していきますので今よりもっと良い商品をつくれるだけの社員のレベルアップに注力するつもりです。

私たちのような小さなパン屋でも社会課題への取り組みと企業活動とを両軸で進められます。そんな我々の姿を通して、障がい者の就労支援に取り組む企業を1つでも増やすことができれば、うれしいです。

企業情報

株式会社バオバブ

2007年創業。アフリカのパンに出会えるパン屋さんAfrican Bakery Cafe Namitete(ナミテテ)を運営。パンの製造から販売までを手がける。創業以来、障害者雇用へ注力し、新潟市が取り組む「障がい者雇用支援企業ネットワーク“みつばち”」での活動にも積極的に取り組む。