取組企業へのインタビュー

会社のフェーズに合わせて、職場環境も変える。これからの時代で生き残り、求職者から選ばれる会社になるために

新潟市中央区に本社を構える建設会社、株式会社田中組。独自に設定した「田中組の28の取り組み」をベースに、スタッフが働きやすく健康でい続けられる会社づくりを推進しています。その取り組みが評価され、令和4年度「新潟市働きやすい職場づくり推進賞優秀賞・新潟 商工会議所特別表彰」にも選ばれました。

具体的な取り組み内容や、背景にある想いについて、経営管理部インフォメーションデザイン 室の齋藤杏奈(さいとう・あんな)さんにお話を伺いました。

「田中組の28の取り組み」を実行し、カード化

働きやすい職場づくりのために、取り組んでいることを教えてください。

齋藤さん:大きくは3種類の取り組みをおこなっています。1つ目は、所定外労働の削減のた めの取り組みです。たとえば、毎月第2・3水曜日の月2回をノー残業デーに設定し、当日の 朝に社内コミュニケーションツールで全スタッフに周知することで、残業せずに帰ってもらう 意識づけをおこなっています。

2つ目は、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を推進するための取り組みです。たとえば、全スタッフにスマートフォンを貸与して出社しなくても連絡を取れるようにしたり、パー ト職を含めた全員へのiPadの貸与とオンラインストレージサービスの導入により、社外でもデ ータ更新をできるようにしたりしています。また、短時間勤務・リモートワークの希望を受け付け、各スタッフの事情に合わせた働き方をしてもらえるようにも調整しています。

3つ目は、健康づくりのための取り組みです。たとえば、毎年全スタッフに受けてもらう健康 診断ですが、希望する女性スタッフには婦人科検診を毎年受けてもらえるようにしており、そ の費用は会社が負担しています。また、入院中の不安解消のため、全スタッフの入院保険料を全額、会社で負担しています。

その他にも、さまざまな取り組みをおこなっており、細かい内容は「田中組の28の取り組み」としてホームページに記載しています。また、SDGs宣言と90-100PROJECTについてはカードになっており、スタッフがカードを持ち運べるようにすることで、いつでも会社の取り組みを意識してもらえるようにする狙いがあります。

画像:「SDGs宣言」カード

画像:「90-100PROJECT」カード

会社のフェーズに合わせて、職場環境も改革

働きやすい職場づくりに取り組みはじめたきっかけを教えてください。

齋藤さん:まだ私が入社する前ですが、今の社長が会社に入ってからだと聞いています。

当時、東京の会社に勤めていた社長は、父親から田中組を継ぐつもりはなかったそうです。し かし、経営の立て直しのために呼び戻され、社長を継ぐことになりました。会社に戻ってきて すぐ、社長は社内の旧態依然とした考え方に驚いたそうです。働く環境を変えるために、制度 整備はもちろん文化を変えるところから始めました。

印象的なエピソードとしては、女性スタッフのお茶汲みをやめさせたことがあります。当時は 当たり前だった、女性スタッフが男性スタッフにお茶を出している姿を見て「何をしているん ですか?飲みたい人が自分で淹れればいいじゃないですか」と、次の日からやめさせたそうで す。一度外に出たからか、客観的な立場で会社を見ていて、これまで社内では当たり前だったことも、徹底的に変えていきました。

とくに最初は、社内からの反発も大きかったそうです。今までの常識が否定され、これまで楽 だったやり方が通用しなくなり「ついていけない」という声も多く挙がったそうです。

社内からの反発があっても、改革を推進し続けたのはなぜなのでしょうか?

会社のフェーズが変わったことが大きかったです。

田中組は創立90年以上の老舗企業ですが、立ち上げから軌道に乗るまでは目の前の仕事に向き合うしかなく、トップダウン体制の下で全社一丸となって生き抜いてきました。

そんな時代が過ぎ去り、今度はいかに新しい価値を生み出すのかというフェーズに入ると、ボ トムアップ型の経営に切り替える必要性が出てきました。社長曰く、自分よりも周りのスタッ フの方が優秀で、周りの意見を聞くほうが、経営がうまくいくようになったのだそうです。そ んな経験もあって、これまで田中組で当たり前だった、社長がスタッフを引っ張る構図から、 スタッフの方が主役で社長はそのための環境を整える役回り、という構図に変わりました。

そのあたりから、「田中組の28の取り組み」の原型となる取り組みが生まれ、今の田中組が 形づくられていったそうです。

採用競争力が高まり、合同説明会で「立ち見」が出た

さまざまな取り組みを実行されていますが、どんな効果があったのか教えてください。

時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を推進するための取り組みの効果としては、出産に伴う離職が0人になったことが大きいです。パート職で出産後2名が復帰、現在育休中の2 名も復帰予定です。また、5年以上勤続してくれているパート職が2020年では3名でしたが、現在では5名に増えました。

健康づくりのための取り組みの効果としては、5年以上連続して健康診断受診率100%をキー プしていることがあります。 過去3年間で病気・入院から5名が職場復帰しています。 病気にならないことが一番ですが、万が一の場合に備えて会社負担で保険に加入しており、スタッ フが入院時に保険金を受け取れます。利用したスタッフが喜んでくれました。

また、働きやすい環境づくりが推進されたことで、採用活動にも大きな効果がありました。県内企業が集まる、新卒学生を対象とした合同説明会で、立ち見が出るほど興味を持ってもらえ、これまでよりさらに私たちの考えに共感してくれる方からのエントリーも増えました。単純に数字での比較が難しい領域ではありますが、新卒応募者数は、新卒採用を始めた2014卒と比較して5倍ほどに増加し、現在の社長が就任した際には2名しかいなかった20代のスタ ッフが、現在では14名在籍しています。

徹底した取り組みで、毎日の働き方を変える

働きやすい職場づくりについて、今後の展望を教えてください。

引き続き、本質的な働きやすい環境づくりのための取り組みを、徹底的にやりたいと思っています。たとえば、より高いレベルで検査をするために東京での健康診断を推奨し、検査費用を補助しようと思っています。

実は新潟県内には東京と比べて、レベルの高いMRIの機械がほとんどありません。性能の高い MRIだと発見できる病気の予兆も、性能の低いMRIだと見逃してしまう恐れがあります。そこで、会社が一部費用を負担して、一定のスタッフには東京で健康診断を受けてもらう制度がつくれないかと構想しています。

また、オフィス備え付けのモニターを活用して、まだ健康診断に行けていない人、残業時間が 多くなっている人、有休をとっていない人などにアラートを出す取り組みも検討しています。 強烈な施策ですが、スタッフの意識を変えるには徹底することが重要です。働きやすい職場づ くりを本気で目指すなら、年度末にまとめて「昨年よりはこれくらい改善した」と集計するだ けでは意味がありません。毎日の業務を改善し、全スタッフが当たり前に、バランスよく働け るようになることが重要だと思っています。

さらに、スタッフのモチベーションを向上させるために、性別や年齢に関わらず頑張った人が きちんと評価をされる、わかりやすい人事評価制度も準備中です。これからも、今までの慣習 にとらわれず最新の技術・システムも取り入れながら、柔軟な働き方に対応していきます。

企業情報

株式会社田中組

1931年創業、1952年設立。新潟市中央区に本社を構える建設会社。慶応4年から白山浦で宮大工をしていたルーツを持つ。現在では住宅・マンション、公共施設、店舗・オフィス、歴史 的建造物など幅広い分野の建設を手がける。従業員数は65名。うち26名が女性(パート職含む)