働き方改革・ウェルビーイング経営コラム

地域企業におけるリスキリング最前線

売上アップにつながるリスキリング。「攻めのDX」を実現する、マーケティングスキルの可能性

2022年10月、岸田首相が「新しい資本主義」の一環として5年間で1兆円をリスキリング支援に投じると表明しました。賃金引き上げのための政策として注目を集めるリスキリングですが、 中小企業にとっては、経営課題を解決するために重要な施策でもあります。 本コラムでは、リスキリングとはなにか、成功事例、具体的な進め方まで、全5回に渡ってお伝えします。

第2回は、DX・デジタルマーケティング専門育成サービス「ジッセン!」の運営責任者、小城流聖さんにインタビュー。リスキリングによる企業のメリットについて伺いました。

 

プロフィール

小城 流聖 氏(SO Technologies株式会社 ジッセン!事業本部 事業責任者)

2016年、サーチライフ株式会社(現SO Technologies株式会社)に入社。DX・デジタルマーケ ティング専門育成サービス「ジッセン!」の営業およびコンテンツ企画運営、新規事業開発を担当し、2018年より事業責任者を担う。中小〜大手総合広告代理店や事業会社のデジタル人材育成、DX組織の立ち上げ支援、自治体との地域活性化支援などを多数経験。2021年、ソウルドアウトグループのアンドデジタル株式会社立ち上げに参画し、DX領域での人材育成サービス開発を牽引。2023年5月、SO Technologiesへのグループ内事業移管にともない現職。

 

売上拡大に必要なのは「攻めのDX」

そもそも、リスキリングによる売上拡大は可能なのでしょうか?

可能です。

我々は普段、DX・デジタルマーケティング専門育成サービス「ジッセン!」や、IT専門リスキリング支援サービス「Webマ+(プラス)」を提供しており、リスキリングにより売上拡大を果たした企業や、リスキリングにより収入アップを実現したビジネスパーソンを多く見てきました。

 

中小企業が売上拡大をするには、何をリスキリングすると良いのでしょうか?

「攻めのDX」に必要なスキルが良いと思います。

DXには「守り」「攻め」の2種類あり、「守りのDX」はツールの導入やミーティングのオンライン化など、業務効率化を目的にした施策を指します。一方、「攻めのDX」は新しいデジタル広告施策の導入やDX人材の採用など、会社の売り上げに直結するような施策を指します。

とくに中小企業の場合は、大企業と比べると資金的な体力がない場合が多いので、リスキリングの投資対効果は重要です。短いスパンで結果が出るほうが、企業も安心感をもって進められると思います。

 

投資対効果で考えるなら、マーケティングスキルがおすすめ

おすすめのリスキリングテーマはありますか?

間違いないのは、マーケティングスキルだと思います。「攻めのDX」として、売上拡大に貢献 してくれることに加えて、資本力のある企業とも戦える武器になるからです。

ビジネスの世界ではどうしても、お金をかけた方がうまくいく分野が多いです。知名度を高めたい場合、費用をかけて露出を増やすほど効果は出やすいでしょう。ただ、マーケティングに関しては、少ない費用で実施できて、大きな成果を上げるものもあります。

たとえば「Google検索エンジンへの最適化」はコスパの良いマーケティング手法の一つです。 店舗を持っている企業であれば、基本無料で使える「Googleビジネスプロフィール」に、ユー ザーが求める情報をわかりやすく登録するだけでも、集客アップが見込めます。スマホの出現により、消費者は自分で能動的に情報を調べることが当たり前になっているので、検索でヒットしやすい場所に情報を用意することの重要性は高まっています。

他にも、有効な施策はたくさんあります。リスキリングによりマーケティングの基本戦略や主要ツールについて学ぶことで、投資対効果の高い売上拡大が可能となります。

 

リスキリングの邪魔になる「思い込み」

担当者がマーケティングを学ぶ過程で、どのようなハードルがあるのか教えてください。

物理的なハードルはほとんどありませんが、思い込みによるハードルはあると感じます。

たとえば、「なかなか良い情報がない」という思い込みです。とくに地方企業に顕著ですが、 自社には良い情報が回ってこないと考える方は多いです。しかし、インターネットが誰でも使える今、情報力にそこまで大きな差はなく、不足しているのは情報ではなくその「取り方」に関する知識です。どんな企業であっても、リスキリングにより必要なスキルを習得することは可能です。

「他社が成功した通りにやれば大丈夫」というのもよくある思い込みです。我々もよく「他社での成功事例を教えてください」と聞かれますが、成功事例は1つのうまくいったパターンに過ぎません。どの会社にでも当てはまるものではなく、同じことをしても効果がない企業だってあります。たとえば、旅館の経営でも、温泉がメインなのかご飯がメインなのかでマーケティングのコンセプトが変わります。事例を探すより、自社のコンセプトを設定する、仮説を設定し検証のためのアクションを設計するなど、基本的な戦略を学ぶことが大事です。

 

リスキリングにより、未経験からマーケティング人材へ

印象に残っているリスキリングの成功事例があれば教えてください。

今まさに取り組み中の、気仙沼市の女性を対象とした復職支援は印象的な事例の一つです。 「未経験からマーケティング人材に」を目指して、DX・デジタルマーケティング専門育成サー ビス「ジッセン!」の動画教材を活用した育成・就業サポートを実施しています。

気仙沼では男性と女性の就業率には約2割の差があります。また、復職やUターンなど、地元での就職を望む女性求職者にとって魅力的な就労環境が多いとは言えず、 週6日勤務や手取り20 万円以下など、厳しい条件も多くあることがわかりました。仙台まで通うにも、片道2時間ほどかかるため現実的ではなく、就業に関する課題が多々ありました。

そんな気仙沼市で希望する女性約15名を対象に、約2ヶ月のオリジナルプログラムを受けていただきました。その結果、受講生の半分ほどがリモートワークで広告業界に就業し、気仙沼に住みながら都心部と同じ水準の給与がもらえるようになりました。ゆくゆくは、気仙沼市の水産加工業者がデジタル人材として彼女たちを雇用するサポートもできればと考えています。

 

最後に、中小企業の人材育成で重要なことを教えてください。

一部の対象者に任せきりにせず、会社全体で取り組むことが重要だと思います。とくに経営者が、育成するスキルについて理解を深めることが重要です。社員に新しいスキルを学んでもらう場合、その社員を評価する側にも知識がなければ、正しい育成なんてできないからです。

また、人材育成のゴールを成果に紐づく形で設計することが重要だと思います。一般的な研修では、いつ使うのかわからないスキルを学ぶこともよくあります。しかしそれだと、投資対効果で見たとき、効率的なリスキリングとは言えません。社員にとっても、学ぶモチベーションが上がりにくいでしょう。

リスキリングを検討している企業は、ぜひ全社一丸となって、まずは投資対効果の高いテーマを選んで、はじめてもらえると良いのではないでしょうか。