取組企業へのインタビュー

出産・子育て世帯の職員に寄り添う特別休暇制度を導入。性別関係なく誰もが働きやすい職場づくりを。

新潟市中央区和合町に本拠地を置き、印刷業を核とした幅広いビジネスを展開する株式会社第一印刷所。
女性活躍推進や出産・子育てに関する特別休暇制度などが評価され、令和3年度新潟市働きやすい職場づくり推進企業表彰市長賞を受賞した同社。さかのぼると2001年頃から20年以上にわたって、女性活躍を推進するための取り組みを行なってきたのだそうです。

どのような背景や思いがあったのか、今後どんな課題があるのかについて同社代表取締役社長の遠山亮(とおやま・りょう)さん(写真左)と総務課長の高橋聡子(たかはし・さとこ)さん(写真右)にお話を伺いました。

女性の活躍推進に取り組み続けて20年以上

令和3年度の「新潟市働きやすい職場づくり推進賞」の市長賞を受賞されていますが、かなり前からこうした取り組みを行なってきたと伺いました。

遠山さん:そうですね、直近で何か課題があったから働きやすい職場づくりに取り組んだわけではなくて、2001年頃から毎年目標を設定して取り組みを続けてきました。私たちはまだ当時は関わっていませんでしたが、最初は男女差を少なくするための小さな取り組みから始めたと聞いています。

高橋さん:女性への格差や差別をなくす「ポジティブ・アクション」の研修に意を受けた当時の専務が、社内から担当者を選出して「ポジティブ・アクション推進委員会」というチームを立ち上げたそうです。そこでアンケート調査をしながら、いわゆる「お茶汲み」などの女性特有の仕事を見直すなど、男女平等のための取り組みを始めたという記録が残っていました。

世の中的に見ても、割と早い段階から女性活躍の部分に課題感を持って取り組んでいらっしゃったんですね。

遠山さん:そうですね。うちはもともと製造業なので、営業も含めて男性の割合がかなり多かったんです。そこから企画開発の部門が立ち上がったことで女性職員の割合が増えて、今では女性管理職が活躍して部門自体がかなり大きく育っているところを見ても、当時は女性の活躍という面で課題を感じていたのだと思います。

それ以降「女性活躍」を核に取り組みを継続しつつ、時代の変化とともに変わっていく課題にその都度対応しながら今に至るという感じですね。

子どもを持つ職員に寄り添った、特別休暇制度の充実

なるほど。では今回「新潟市働きやすい職場づくり推進賞」の応募にあたって、取り組んだ内容を具体的に教えていただけますか?

写真:高橋聡子さん

高橋さん:いろいろやってきましたが、特に育児関係の特別休暇の制定と取得推進の部分を評価していただけたのかなと思っています。すでに「くるみんマーク」や「イクメン応援プラス」といった認定はいただいていたので、一般事業主行動計画(※)に連動させた取り組みとして、特別休暇を充実させました。

※事業主が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、①計画期間②目標③目標を達成するための対策の内容と実施時期を具体的に盛り込み策定するもの。

その一つが「配偶者出産休暇」です。出産予定の配偶者がいる職員が、予定日の前後2週間の間に3日間の特別休暇を取得できる制度ですね。二つ目は、通常の育児休業とは別で設けた「育児休業の3日間特別休暇」。これは1か月間の育休を取得することにハードルを感じていたり、給付金が出るまでの育休中の生活に不安を感じていたりする職員をターゲットにしています。特別休暇なのでお給料を減らさずに休めますし、「3日間なら取ろう」と思ってもらえたらなと。

きっと出産・子育てをする方たちにとっては、“かゆいところに手が届く”特別休暇ですよね。気軽に取得できそうなのも魅力的です。

高橋さん:他にも、育児と仕事の両立のための特別休暇制度として、義務教育年齢の子どもをもつ職員を対象に、子ども1人につき1日の休暇を取得できる「子ども行事休暇」もあります。これは、一般事業主行動計画の次の期の取り組みを決める際に、先ほどの2つの特別休暇は継続しつつ、次の目標として何がふさわしいかを考えてつくられたものです。

やはり今は入学式とか卒業式といったライフイベントは、ご両親が揃って参加されるのがスタンダードなので、そういった要望も踏まえてライトに取得できる特別休暇になりました。半日単位で取得ができるので、授業参観に利用される方もいらっしゃいます。

遠山さん:こうした取り組みを進めていくなかで、周囲から応募の打診があって、今回「新潟市働きやすい職場づくり推進賞」に応募しました。もちろん賞をいただくために取り組んだわけではありませんでしたが、受賞できてよかったです。

見えてきた「休暇取得の平等性」と「管理職と家庭の両立」の課題

そのような特別休暇制度ができて以来、現場の皆さんの反応はいかがですか?

高橋さん:割とすんなり、受け入れてくださっているのかなと思いますね。皆さん、特別休暇制度を使えることが当たり前の認識になっていて、定着しているのを感じます。「配偶者出産休暇」は、対象になる職員の取得率50%以上という目標に対して90%以上が取得していますし、「育児休業」や「子ども行事休暇」も積極的に使っていただいています。

ただやはり課題もあって、全員が平等に取得できるかというとまだそうではないのかなと思います。実際に育児休暇を取った男性職員の方もいましたが、結局繁忙期を避けないと周りの人がフォローできないとか、自分の代わりがいないポジションだとそもそも取れないとか。

遠山さん:部署によっても休暇の取りやすさに差が出てしまっている部分はありますよね。

高橋さん:「配偶者出産休暇」も、1日は取れても3日は難しいという声もありますしね。あとは近年有給休暇の取得が義務化されたので、有給休暇を優先すると、その兼ね合いで特別休暇を諦めざるを得ず、結果的に取得率が下がってしまう懸念もありますね。全員が自分のタイミングで休暇を取れるようにしていくことは、これからの課題だと感じています。

ポジション関係なく、誰もが気兼ねなく休暇を取れるようになったらいいですよね。他に現場から上がる声としてはどんなものが多いのでしょうか。

写真:遠山亮さん

遠山さん:働きやすい職場づくりという点では、今は制度面よりも職場の設備や残業時間の削減など、労務環境の面で現場から声が上がることが多いですね。製造部門では、5〜6年前から生産性の向上を目的に機械の入れ替えや自動化を進めていて、残業時間はかなり削減されました。

働く環境の見直しに注力して、本社工場では昭和らしいグレーのロッカーをダイヤル式の白いロッカーに変えたり、食堂の昔ながらの机を新しくしたりとか。企画営業部門に関しては、最近もPCをリモート勤務に対応できるものに入れ替えました。小さくてもできるところから着手しています。

高橋さん:使っている設備が新しくなると、みんな喜んでくれていますよね(笑)。

たとえ小さなことでも、自分の上げた声が形になると、職員の皆さんの働きがいにも繋がっていきそうですよね。もともと「女性の活躍」が20年以上にわたる取り組みの核だったと思いますが、今感じている効果や手応えはありますか?

遠山さん:2022年4月時点での管理職に占める女性の割合は18.5%で、目標の20%にはあと一歩なのですが、企画営業部門で見ると本当に女性の職員が増えましたし、管理職の割合もすでに女性が男性を上回っています。新卒の求人を出しても、今は全体の8割が女性になりました。

今はもうこちらが何かを仕掛けて女性活躍を推進するというよりは、自然と優秀な女性たちが増えて、その方々が活躍して管理職に上がっていくサイクルができてきているなと感じています。

高橋さん:産休や育休を取って復職される方も増えていますし、勤続年数が長くなるぶん経験値が上がって、女性たちが自信を持って働けるような環境になってきたのかもしれないですね。

ただ正直なところを言うと、管理職の女性が仕事と家庭を両立することにはまだまだハードルがあるのではないかと感じています。仕事と家庭のバランスはまだまだ難しいので、両立できている管理職の方が増えれば、目指したいと思う人もより増えるのかなと。

遠山さん:家庭を持ちながらも、キャリアを積めるようにするという課題はありますね。いろいろな働き方を選べる中で、バリバリやりたい場合は性別関係なく上に上がっていける枠組みになってはいるけれど、そのために必要なフォローアップはたくさんあるなと。

役職につけば物理的に仕事の負担が増えるのに加え、部下ができることでまた別の悩みが生じると思うので、そういったマネジメントクラスの教育も進めていかなければならないと思います。

グループ全体で、実行力や組織力を高めていく

すでに多くの取り組みを経て、課題も明らかになってきていますが、今後の展望を教えていただけますか?

遠山さん:すでに一通りのことはやっているつもりなので、毎年何を新しい目標にするかという部分が悩みだったりするのですが(笑)。さらなる活躍の場を広げるという意味だと、現状女性の課長はいるのですが、それ以上の次長や部長はまだいないんです。

ですので、まずは先ほどの課題を踏まえて下地をきちんとつくりつつ、性別関係なく思いのある人が役員に上がっていける組織作りをしていきたいと考えています。実は全国にパートナーシップを組んで連携している同じ業種の会社があって、女性の課長と担当者の方がバリバリ組織改革に取り組んでいるので、よく情報交換をさせてもらって参考にしています。

そういった繋がりもあるんですね。同業でライバルでもありつつ、ともに働きやすい職場づくりを推進していく同士というか。

高橋さん:そうですね。以前実際に見学させていただいた際に、人事管理や労務管理にも新しいシステムを入れていて、ものすごく整っていていいなと思ったのですが、うちだとまだ操れる人がいないから難しいよねと。でもそうやって何かハードルがあったときに、難しいからと諦めずに、一歩踏み出す実行力やクリアできる力があったらいいなと感じましたね。

遠山さん:やりたいことをすぐに実行できる組織力やバックボーンが欲しいですよね。やはり既存の業務で手一杯になってくる部分もありますし、今後は本部だけでなく第一印刷所グループ全体を束ねながら、さらに総合力を発揮していきたいと思っているので、まだまだ道半ばです。

そのためにも、社員の皆さんには「自分の働く場所は自分で変えていく」という当事者意識を持ってもらう必要があるなと。結局上から言われてやるよりも、自分事として取り組めるエンゲージメントの高い職場って強いと思うので、そういった組織風土を醸成していく取り組みも並行してやっていきたいです。

高橋さん:たぶん皆さんそれぞれ「こうだったらいいな」と思っていることはあるけれど、それが当たり前になってしまったり、変わらないことに慣れてしまったりすると、声自体が埋もれていってしまいますよね。みんなが「良かったね」と言えるように、会社が変化していくことはすごく大事だと思うので、ヒアリングの機会などを設けながら小さな声自体もきちんと拾える組織にしていけたらなと思います。

企業情報

株式会社第一印刷所

昭和18年創業。新潟県内でも大きなシェアを誇る印刷会社。7社のグループ企業を持ち、高品質な印刷物の制作・製造をはじめ、ウェブや動画制作、システム開発、ウェブ広告の運用やイベントプロデュースまで、情報発信に関するあらゆるニーズに幅広く対応する。現在、第一印刷所グループ全体で500名程度の従業員が在籍中。